実家の主は、父だった。
その父が他界し、母はそのことも記憶の奥にあるのかないのか。
人は、自分と違う他の人を理解しようとするが、本当に理解できたかと検証しようがないのだ。
私の家が、工事中なので今は実家に住まわせてもらっている。
父が、健在の時掃除や食事の支度に訪れても、ずいぶん病状が進んで元気がなくなるまで、あまり実家の家事はさせてくれなかった。
「早く、帰って家のことをしなさい」と。
今、誰もいないので老人二人が過ごした家を少しずつ掃除している。
ほんとに、少しずつ。
今日は、トイレ。
一番させるのを拒んでいたところだ。かといって、特別汚れているのではない。
娘にトイレ掃除をさせるわけにいかないという、どれだけ甘いんだ。
しかし父は、決して甘やかして育てたわけではない。
絶対許せないことには、鉄拳が飛んできた。
夜中でも容赦なく、起こされてしかられた。
何が気に食わないかというと
「嘘をつくこと」
子供だから、自己防衛や甘えてしなければならないことをさぼるために嘘をつくことがあった。
それも許してもらえなかった。
怖かった、それなのに詰めの甘い私は、バレる嘘をつく。
そんな父はもういない。
トイレ掃除も思う存分させてもらおう。
行き届かなかった奥の汚れをこすって落とした。
家事ができなくなっていた母に変わって、父は小奇麗に実家の掃除をしていたと思う。
若い時は、決して家のことしなかったのに…