『星を編む』は前作『汝、星のごとく』の続編である。
前作は、現代の社会問題がたくさん盛り込められていた。
小説の中だけでなく、現実にある切実な問題として胸に迫るものがあった。
前作で語られなかった物語の鍵になる主要人物「北原先生」の人間性がどうつくられてきたのか、一番知りたかったので「北原先生」ファンとしては興味深い。
第20回本屋大賞受賞作『汝、星の如く』を読んだ方にはおすすめの本です。
また、読んでない方にも愛とは?と語りかけてくる本です。
春に翔ぶ
この章は北原先生の家族関係のことが書かれている。前作では、北原先生の人物像がほとんどわからなかった。
主人公の高校生の櫂と暁海を献身的に助ける高校教師。
少し大人びた娘と二人暮らしだ。
教師と生徒というだけで、そこまで生徒の人生に立ち入り関わることができるだろうか。しかも、冷静で的確な判断。
その北原先生自身のことがほとんど明らかにされず、物語は進んでいく。
春に翔ぶの章では、北原先生の過去が明らかになる。
先生自身のかかえるジレンマやそこから解放されたいという葛藤。
先生自身の深い傷。
また、櫂と暁海に出会ったときにすでにいた娘の事など。
穏やかな瀬戸内の海のそばでくりひろげられる物語なのだ。
星を編む
私は、小説は読むけれど、この私にその本が手に届く過程を知らない。
この章では、出版業界のことが書かれている。
櫂は以前、原作 青埜櫂、作画 久住尚人で『ヤングラッシュ』という雑誌にコミックの連載をしていた。
才能ある二人を見出した、当時若手の植木渋柿は二人に寄り添い編集者を務めていた。
作品も好調で多くの読者をつかんでいた。
しかし、あることをきっかけにSNSで炎上、既刊は絶版。電子書籍も配信停止になった。
また、青埜櫂の文才を見出したもう一人の編集者、二階堂絵理は、彼の小説を世に出すことを心に誓っている。
コミックと小説を同時に再販、出版しようとする二人。
編集者というのは、何年も作家とともに作品をあたため出版する。
というとてつもない根気と努力が必要だった。
作家の原稿にダメ出しをしたり、良いところを根気強く伸ばしていく。
そして、商業戦線に乗せていくのは容易ではないことを知る。
出版にこぎつけても、取り扱ってくれる書店を開発していき、販売の最前線にいる書店員にその本の良さを分かってもらう。
これも、ひとえに編集者自身の情熱と何かを引き換えにすることも辞さない覚悟がいることなのだろう。
実際、どうなのかはわからないが。
出版するということの醍醐味と苦労の一端を覗いたような感覚だった。
波を渡る
ここでは、暁海と北原先生の人生が語られる。
それぞれ、もう若くなく彼らを取り巻く人々も同様に歳をかさねている。
前作で嵐のような恋愛が語られたあと、この二人の関係がどうなっていくのか。
どう人生がなだらかに進んでいくのか。
ここで出てくる人々は、世間でいう「普通」ではない。
それでもつながっていくのはなぜなのか。
愛は優しい形をしていない
愛は優しい形をしていない、それでも愛は。
これは前作でも語られた言葉なんだけれど。
愛とは
形でしょうか
状態でしょうか
与えるもの、与えられるもの
正しい形とは
いくつもの問を投げかけてくれます。
前作を読んだ方にはぜひ、おすすめしたい本です。
そして、愛について心細い方、迷っている方にも勇気を与えてくれる一冊になると思います。